PSAが高いと言われた方へ

1.PSAとは? 

PSAとは前立腺細胞で特異的に産生される分泌蛋白です。正常の前立腺細胞でも作られていますが、前立腺組織が壊れていなければ血液中に漏れ出ることは少ないため、通常は血液検査で測定しても低い値(正常:0~4ng/ml)となります。しかし、前立腺癌になると癌細胞は正常細胞に比べて壊れやすいために癌細胞から分泌されたPSAは血中に漏れやすくなり、癌病巣が大きくなるにつれて血液中のPSA濃度は高くなります。ただし、良性の前立腺肥大症や前立腺に炎症を起こした場合でもPSAは高くなるため、PSAが高いことイコール前立腺癌とは限らないのです。

2.PSAが高い原因を調べるには?

上記のようにPSAが高くなる原因は(1)前立腺癌(2)前立腺肥大症(3)前立腺の炎症の3つの可能性があります。PSAの値だけでは、それらを区別することができないため、診断の確定には「前立腺生検(前立腺の組織検査)」が必要です。

3.前立腺生検とは?

当院では日帰りで「前立腺生検」を行っています。多くの施設では無麻酔で経直腸的(肛門側から針を刺して組織を採取する方法)で行っていますが、検査時の痛みと検査後の感染などの合併症が問題となる場合があります。当院では下半身麻酔で経会陰式(陰嚢の裏側の皮膚から針を刺して組織を採取する方法)で行うため、検査時の痛みは全くなく、感染などの合併症もほぼありませんので、安心して検査を受けて頂けます。

4.前立腺生検で前立腺癌が検出されなかったのに
PSAが高い状態が続くのは? 

「前立腺生検」を受けた方に前立腺癌が見つかる確率は、通常40~50%(PSAが4~10ng/mlの場合は30~40%)と言われています。つまりPSAが高くて「前立腺生検」を受けても6割近くの方は前立腺癌が検出されないということです。この方々の大半(70%程度)は前立腺肥大症や前立腺炎によるPSA上昇のため、それらの治療を受けることでPSAが下がる場合もあります。しかし残りの30%程度の方は、前立腺癌が隠れているのに、1回の「前立腺生検」で前立腺癌が見つけられなかった可能性があります。これは前立腺癌の病変自体が小さく、細い針で数ヶ所(通常8~12ヶ所)検査しただけでは、つかまえられなかったということなのです。このような場合は通常2年程度のうちにPSAが徐々に上昇してきます。一般に2年以内にPSAが「前立腺生検」前の2倍以上に上がった場合は前立腺癌が隠れている可能性が高いと言われています。そのため「前立腺生検」で前立腺癌が検出されなくても、少なくとも2年間は3~6ヶ月おきにPSAを測定し経過を観察する必要があります。その間にPSAが上昇するようであれば2回目(場合によっては3回目)の「前立腺生検」を行う必要があります。2年程度経過を観察しPSAの上昇がないようであれば前立腺肥大症または前立腺炎によるPSA上昇と判断し、それらの治療を行いつつ、年1回程度のPSAのチェックを行います。

5.例えば「PSA6.5」って異常ですか? 

PSAは0~4ng/mlが正常域ですから「6.5」は正常ではありません。しかしPSA値は「絶対値」より「相対値」の方が重要な場合もあります。例えば昨年の検診でPSA3.0であった方が今年の検診でPSA6.5であったら、昨年の2倍以上に上昇したわけですから、これは大きな異常です。逆に昨年の検診でPSA7.0の方で「前立腺生検」を受け、癌が検出されなかった方であれば今年のPSA6.5は心配のない結果と考えてよいのです。またPSAは前立腺の体積(大きさ)に比例して上昇しますから、前立腺が非常に大きな方であればPSA6.5でも心配ないことも多いのですが、前立腺が小さいのにPSA6.5であれば癌の疑いが強くなります。さらにPSAは加齢によっても上昇するため、85歳の方であればPSA6.5はあまり心配ありませんが、60歳の方でPSA6.5は心配な結果です。このようにPSA値は以前の値との比較、前立腺の大きさ、年齢なども加味して評価しなくてはならないのです。

6.前立腺肥大症によるPSA上昇について

前立腺の炎症によるPSA上昇は一時的な場合が多いため、前立腺癌でないPSA上昇のほとんどは前立腺肥大症によるものです。このような患者様のほとんどは前立腺肥大症の飲み薬を継続しながら定期的なPSAチェックを受けているのが現状です。しかしこれでは、PSA検査を受けるたびに、その結果にドキドキし、いつまでたっても「前立腺癌の疑い」から逃れられなくなります。そこで我々は前立腺肥大症が原因と思われるPSA上昇の患者様に対して「前立腺肥大症に対する内視鏡手術」を行いました。その結果、全員の手術後PSA値は正常となり、切除した前立腺組織もすべて調べ「前立腺癌」が存在しなかったことを確認しました。皆様、「前立腺癌の疑い」から解放され、排尿の具合も非常によくなり、泌尿器科に通院する必要もなくなりました。
「前立腺癌」が否定されたPSA上昇の場合は前立腺肥大症の治療によって解決することもあります。皆様の長年の悩み(PSAが高いこと)が早く解決されるように我々はこれからも努力していきます。